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高松高等裁判所 昭和38年(く)16号 決定

少年 T(昭二三・七・二四生)

主文

原決定を取り消す。

本件を徳島家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の理由は、記録に綴つてある少年の附添人弁護士三木大一郎作成名義の抗告申立書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

所論は、本件少年は教護院または養護施設に送致されるのが少年の更生にとつて最も当を得た処分であるにかかわらず、少年を初等少年院に送致する旨の決定をした原審の処分は著しく重きに失し不当であるというのである。

よつて、所論に鑑み、本件記録及び松山少年院から取り寄せた少年調査記録を精査し、かつ、当審における事実取調の結果を勘案して検討するに、少年の家庭環境が芳しくないこと及び家庭における保護能力が極めて乏しいことは原決定説示のとおりであるが、しかし、少年の本件各非行は暴力事犯ではあるが比較的軽微な事案であること、少年は、昭和三七年一二月一八日徳島家庭裁判所において窃盗容疑で審判不開始となつたことがあるが、これとて他人の畑の柿の木から柿を数個もぎ取つたという事案であつて本件とは全く事案を異にしており、また、従来二回程暴力行為に及んだことが窺われるが事件として取り上げる程のことではなかつたことであり、従来保護処分に付されたようなことはないこと、少年の性格が粗暴で短気であることは否めないが、一面学校における授業中等にはおとなしく他生徒に対して悪影響を及ぼすようなことはなく素直で柔順な面もあること、したがつて、少年は、その指導如何によつては必ずしも学校生活には不適応であるとは断定し難いこと、少年の家庭環境の整備されていないのは、あげて母親辰○さ○及びその情夫三○実○にその責任があり、少年には何ら責任のないことであつて、家庭環境の不整備の点を大きく取り上げて少年の処分決定の資料とすることは少年に対して些か酷であることがそれぞれ認められる。

右の各事情を考慮すると、本件少年に対する処遇をいかにするかは相当困難な問題ではあるが、しかし、その非行の態様、現在中学校第三学年に在学し義務教育中の少年であつて昭和三九年三月にはその卒業が予定せられていること及び未だかつて保護処分に付されたことのないこと等に徴すると、原審としては、少年を相当の期間家庭裁判所調査官のいわゆる試験観察に付して少年を従前どおり○○中学校に通学させながら今後の行動を観察したうえで適切な保護処分に付するとか不処分にするとか、もしくは適当な教護院施設があり、かつ、その収容能力が許すならば教護院に送致する等の保護処分をするのが相当であつて、少年をいきなり初等少年院に送致する旨の決定をした原審の処分は著しく重きに失するというべきである。論旨は理由がある。

よつて少年法第三三条第二項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 加藤謙二 裁判官 木原繁季 裁判官 伊東正七郎)

参考二 鑑別結果通知書〈省略〉

参考三

抗告申立書

少年 T

右の者に対する傷害暴行保護事件について左のとおり抗告の申立をする。

申立の趣旨

昭和三八年六月二一日徳島家庭裁判所がなした「少年を初等少年院に送致する」との決定を取消し、右の少年を教護院又は養護施設に送致するよう御決定賜りたい。

申立の理由

一、少年が決定摘示のとおり罪を犯したものであり、その家庭環境又決定に摘示されたとおりであることは本附添人も認めるところである。

二、しかしその他の少年の資質等について原決定は少年が学校不適応と判断しているが少年の在籍した△△中学校及び○○中学校の学校照会書によれば授業中において少年はおとなしく他の生徒の妨害になるようなことはなかつたこと、又教師に対して従順であつたことが窺われる。

恵まれない家庭環境から反撥して他の温和善良な生徒達に対して暴力をふるいその生徒達をして畏怖せしめたことは認められるが学校不適応を断ずることは早計である。又少年の粗暴性も夏休のアルバイト中において他校中学生から殴られたことに端を発しているので本附添人も少年を保護観察に付して家庭へ帰すことの不可なることは充分認めるところであるが少年院に送致することはますます母との間も隔離することになり却つて愛情に飢える少年の粗暴性退行性を助長するもので教護院又は養護施設に送致するのが少年の更生にとつて最適であり少年院送致処分は著しく不当であると思料するので本申立に及ぶ次第である。

右申立する。

昭和三八年七月四日

右附添人

三木大一郎高松高等裁判所 御中

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